逆行列の問題で論理トレーニング
論理学の応用例として、逆行列に関連した証明問題を書き直しました。
ここで使う論理
モーダス・ポンネンス
\(P\)が真かつ\(P \Rightarrow Q\)が真ならば\(Q\)は真。
推移律
\[P_{i} \Rightarrow P_{i+1}~~(i=1,2,\ldots n)\]が全て真ならば\(P_{1} \Rightarrow P_{n}\)である。
ここで使う定理
ここで使う定理を列挙する。ここでは\(x,y,a,b\)は正方行列全体の集合の元とする。
次の記号を導入する。
- \(P(x,y): xy = 1\)
- \(Q(x,y): y = x^{-1}\)
- \(R(x,y): xy = yx = 1\)
- \(S(x,y): xy = x+y\)
上に列挙した定理を記号で書く。
- \(\forall x,y;~S(x,y) \Rightarrow P(x-1,y-1)\)
- \(\forall x,y;~P(x,y) \Rightarrow Q(x,y)\)
- \(\forall x,y;~Q(x,y) \Rightarrow R(x,y)\)
問題
正方行列\(A,B\)が\(AB = A+B\)ならば\(BA = A+B\)である。このことを証明せよ。
証明
問題を記号を使って書けば
\[\forall x,y;~S(x,y)\Rightarrow S(y,x)\]
である。これの証明は、上の定理を認めれば、非常に素直に証明できる。まずある正方行列\(a,b\)が\(ab = a+b\)を満たすとする。このとき上の定理が成り立つから
- \(S(a,b) \Rightarrow P(a-1, b-1)\)
- \(P(a-1,b-1) \Rightarrow Q(a-1, b-1)\)
- \(Q(a-1,b-1) \Rightarrow R(a-1, b-1)\)
が成り立つので推移律から
\[ S(a,b) \Rightarrow R(a-1, b-1)\]である。今\(S(a,b)\)が真と仮定したので、モーダス・ポンネンスから\(R(a-1, b-1)\)は真である。\(a,b\)は任意に選んだので
\[\forall x,y;~~S(x,y) \Rightarrow R(a-1,b-1)\]
が成り立つ。ここで
\[R(a-1, b-1) \Leftrightarrow (b-1)(a-1) = 1 \Leftrightarrow S(b,a)\]
を使うと
\[\forall x,y;~S(x,y) \Rightarrow S(y,x)\]
が証明される。
\(\forall x,y;~P(x,y) \Rightarrow Q(x,y)\)の略証
任意の正方行列\(a,b\)について\(P(a,b)\)とすると、\(\det [AB] = \det A \det B\)なので\(\det A \det B = 1\)。従って\(\det A \neq 0\)であるから行列\(A\)は正則である。正則行列は逆行列を持つので、\(AB = 1\)の左から\(A^{-1}\)を掛けると\(B = A^{-1}\)であることが分かる。