「行列のトレースは固有値の和」の証明が簡単にならないか考えてみた

数学:物理を学び楽しむために(MB120321.pdf)p371の定理6.34の(6.5.12)の左の証明についてです。証明の中で

代入すればすぐにわかるのだが、もっとエレガントなやり方はないかなあ?

と書かれていたのでエレガントか分かりませんが、簡単にならないか考えてみました。ただしオリジナルと異なり、行列A固有値\lambda_{i}~~(i=1,\ldots ,d)は全て互いに異なるとします。

証明したいこと

固有値に縮退の無い行列Aのトレースは \mathrm{Tr} A = \sum_{i=1}^{d}\lambda_{i}である。

証明

固有値に縮退がないので定理6.36から固有ベクトル\vec{v}_{i}~~(i=1,\ldots ,d)は線形独立である。従ってP =(\vec{v}_{1}~~\vec{v}_{2}~~\ldots ~~\vec{v}_{d})は正則であり、逆行列を持つ。A\vec{v}_{i} = \lambda_{i}\vec{v}_{i}なので
AP = P\Lambda,~~<br />
\left(\Lambda\right)_{i,j} = \lambda_{i}\delta_{i,j}
である。左からP^{-1}を掛けるとP^{-1}AP=\Lambdaとも書ける。この関係を使うと\mathrm{Tr}Aは次のように変形できる。
<br />
\mathrm{Tr}A = \mathrm{Tr}\left(PP^{-1}APP^{-1}\right) = \mathrm{Tr}\left(P\Lambda P^{-1}\right)<br />
ここで\mathrm{Tr}(AB) = \mathrm{Tr}(BA)を使うと次のようにして行列のトレースが固有値の和であることが分かる。
<br />
\mathrm{Tr}A = \mathrm{Tr}\left(P^{-1}P\Lambda\right)<br />
             = \mathrm{Tr} \Lambda = \sum_{i=1}^{d}\lambda_{i}<br />