フェルマーの原理

この文章では、波のある点の運動について運動方程式を立て、最小作用の原理からフェルマーの原理を導きます。このときの一般化運動量とエネルギーは、ちょうど質量0の粒子の場合に一致しています。最後にフェルマーの原理から光の直進性と屈折の法則を導きます。運動方程式を立てる準備として、群速度について説明することから始めます。

群速度


分散関係\(\omega(k)\)を持った2つの波の重ね合わせを考える。
\[f(y,t) = C\{\cos(k_{0}y - \omega(k_{0}) t) - \cos(ky-\omega(k) t)\}\]
ここで\(k = k^{\prime} + \Delta k,~~k_{0} = k^{\prime} - \Delta k\)とすると、三角関数の合成公式を使うと
\[f(y,t) =\left[2C\sin(\Delta k y - \Delta \omega t)\right]\sin(k^{\prime}y - \omega(k^{\prime})t)\]
と書ける。ただし\(\omega(k) = \omega(k^{\prime}) + \Delta \omega,~~\omega(k_{0}) = \omega(k^{\prime}) - \Delta \omega(k)\)である。
特に\(\Delta \omega << \omega(k^{\prime})\)になるとき、\([\ldots ]\)の部分は大きさ\(0\)から\(2C\)までゆるやかに時間変化する振幅で、角振動数\(\omega(k^{\prime})\)で振動していて、うなりを起こしている。

このとき、波の振幅の変動部分は\(\frac{\Delta \omega}{\Delta k}\)の速さで移動する。平均値の定理を使えば、
\[ \frac{\Delta \omega}{\Delta k} = \frac{\omega - \omega_{0}}{k-k_{0}} = \frac{d\omega(\bar{k})}{dk}~~(k_{0} \le \bar{k} \le k)\]
になる。今\(k_{0}\)と\(k\)が近い場合を考えているのだから、\(\bar{k}\simeq k^{\prime}\)になる。このような、比較的波長の近い波が重ね合わさったときに、その波全体としての移動速度は\(\frac{d\omega}{dk}\)で特徴付けることができて、これを群速度と呼ぶ。

運動方程式


波の式は
\[ f(y,t) = A(y,t)\sin [\phi(y,t)]\]
と書ける。位相の部分の全微分
\[ d\phi(y,t) = \frac{\partial \phi}{\partial y}dy + \frac{\partial \phi}{\partial t}dt\]
だが、平面波の場合と比較すれば
\[ k = \frac{\partial \phi}{\partial x},~~\omega = -\frac{\partial \phi}{\partial t}\]
になる。今、波のある点の時刻tの波数とその位置をそれぞれ\(p(t),x(t)\)としよう。この時、この点は群速度の速さで伝わっていく。上の式を使えば、波数の時間微分は上の式から得られるので、今考えた点の運動方程式
\[ \dot{p} = -\frac{\partial \omega}{\partial x},~~\dot{x} = \frac{\partial \omega}{\partial p}\]
となる。これは、\(\omega\)をハミルトニアンとした場合のハミルトンの運動方程式になっている。

フェルマーの原理


最小作用の原理から、フェルマーの原理を導く。フェルマーの原理が成り立つのは、\(\omega\)が時間に依らず一定の値を取るときに対応する。このようなとき、運動の始点と終点を固定して終点の時刻を変化させてみると、作用の変分は
\[ \delta S = -\omega \delta t\]
となる。作用は\(S = \int \boldsymbol{p}\cdot d\boldsymbol{x} - \int H dt\)だが、今\(H = \omega\)だから作用の変分は
\[ \delta S = \delta (\int \boldsymbol{p}\cdot d\boldsymbol{x}) - \omega \delta t\]
従って実際に起こる運動は次のようになる。
\[ S_{0} = \int \boldsymbol{p} \cdot d\boldsymbol{x},~~\delta S_{0} = 0\]
これが、フェルマーの原理になっていることは、\(d\phi\)を\(\omega\)が一定として積分した値がちょうど作用に一致していることから分かる。

フェルマーの原理の応用


真空中の光の運動


真空中では、波数ベクトルは、その単位ベクトルを\(\boldsymbol{n}\)とすると\(\boldsymbol{p} = \frac{\omega}{c}\boldsymbol{n}\)である。\(\boldsymbol{n}\cdot d\boldsymbol{x} = dl\)とすると\(\int dl\)が最小になるように光は伝わっていく。2点の最短経路は直線だから、光は直進する。

光の屈折


媒質1,2での光の速度を\(v_{1},v_{2}\)とする。始点から境界面への経路を\(p_{1}\)、境界面から終点までの経路を\(p_{2}\)とすると
\[S_{0} = \int_{\boldsymbol{x} \in p_{1}} \frac{\omega}{v_{1}}\boldsymbol{n}\cdot d\boldsymbol{x}
+\int_{\boldsymbol{x} \in p_{2}} \frac{\omega}{v_{2}}\boldsymbol{n}\cdot d\boldsymbol{x}
\]
を最小にする経路をとる。一番最初に考えたように、光の速度が同じ区間では光は直進するので、始点、境界面、終点を\((x_{i},y_{i}),(x_{0},0),(x_{f},y_{f})\)とすると
\[S_{0} = \omega\left(\frac{\sqrt{(x_{0}-x_{i})^{2}+y_{i}^{2}}}{v_{1}}+\frac{\sqrt{(x_{f}-x_{0})^{2}+y_{f}^{2}}}{v_{2}}\right)
\]
で、これが最小になる\(x_{0}\)が実際に実現される運動になる。
\[
\begin{align*}
\frac{dS_{0}}{dx_{0}} &= \omega\left(\frac{\sin \theta_{1}}{v_{1}} - \frac{\sin \theta_{2}}{v_{2}}\right) = 0\\
\sin \theta_{1} &= \frac{x_{0} - x_{i}}{\sqrt{(x_{0}-x_{i})^{2}+y_{i}^{2}}}\\
\sin \theta_{2} &= \frac{x_{f} - x_{0}}{\sqrt{(x_{f}-x_{0})^{2}+y_{f}^{2}}}
\end{align*}
\]
これは屈折の法則、あるいはスネルの法則と呼ばれている。