アインシュタインの関係式

問題設定


室温(300K程度)で水中にビーズ(微粒子)を入れると、ビーズは水分子の衝突により運動し続ける。この運動をブラウン運動と呼ぶ。また1次元的にビーズが動くとき、外力が一様に方向\(-x\)、大きさ\(f\)でかけると、一定の時間が経過すると沈降状態になる。

問題


1次元ブラウン運動からアインシュタインの関係式が成り立つことを示せ。また、外力の無い2次元的な運動をするビーズを使った実験の測定値と関係付けよ。

前提



  • 外力が働かないとき水分子の速度がバラバラならば、モデル1(下の定義参照)で計算した物理量の期待値が実験に一致する

  • ビーズの運動は、+境界条件(この名前は一般的でないので、下の定義を参照)を課せば沈降状態に緩和する

  • 平衡状態ならば、ビーズの数密度は時間依らず一定になる

  • 沈降状態のビーズのハミルトニアンは\(fx\)である

  • 沈降状態は熱平衡状態である

  • 平衡状態では、ビーズの数密度に比例した確率密度で計算した物理量の期待値は、カノニカル分布でした場合に一致する


定義


モデル1


ビーズがどの方向へも等確率に移動する確率モデル。1次元の場合、x方向と-x方向へ移動する確率が等しく、残りの確率で移動しない。(外力が働くときは、\(-x\)方向へより速く移動する効果を取り入れるために、時間あたりにその方向へ移動する確率を高くして調節する)

+境界条件


運動を\(x\ge 0\)に限定する境界条件

アインシュタインの関係式


\(f\neq 0\)、+境界条件なしのときに
\[u = \frac{\langle x(t)\rangle}{t}\]
で定義され、更に\(f=0\)としたときに
\[D = \frac{\langle \{x(t)\}^{2}\rangle}{2t}\]
で定義される\(D,u\)と外力\(f\)、それと温度\(T\)、気体定数\(R\)、アボガドロ数\(N_{A}\)の間の関係式
\[ f\frac{D}{u} = \frac{RT}{N_{A}}\]
アインシュタインの関係式と呼ぶ。

前提から示せる性質



  • モデル1ではビーズの数密度は1次元のとき
    \[ \frac{\partial \rho (t,x)}{\partial t} = u\frac{\partial \rho(t,x)}{\partial x} + D\frac{\partial^{2} \rho(t, x)}{\partial x^{2}}\]
    に従う。

  • 平衡状態のビーズの数密度は、1次元の場合\(\exp(-\frac{D}{u}x)\)に比例する

  • d次元(d=1,2,3)で外力が働かないとき\(\langle \boldsymbol{x}^{2}(t)\rangle = 2dDt\)


解答例

  1. 境界条件で、平衡状態になったときのビーズ1つ当たりのエネルギー\(\epsilon\)を計算すると、アインシュタインの関係式が得られる(\(Z\)は分配関数)。

\[\frac{\int_{0}^{\infty}dx fx \rho(x)}{\int_{0}^{\infty}dx\rho(x)} = \frac{\int_{0}^{\infty}dx fx e^{-\beta H}}{Z}\]
平衡状態ではビーズは停止しているので、ハミルトニアンは\(H = fx\)なので、右辺は\(RT/N_{A}\)に等しい。左辺は\(fD/u\)になる。次に2次元の実験で測定できる\(\langle \boldsymbol{x}^{2}\rangle = \langle x^{2}+y^{2}\rangle\)と\(D\)を関係付けることを考える。1次元のとき、外力なしで
\[ \langle x^{2}(t) \rangle = 2Dt\]
となる。2次元の場合を、1次元で定義した\(D\)を使って書くと
\[ \langle \boldsymbol{x}^{2}(t) \rangle = 4Dt\]
になる。従ってビーズの移動距離の2乗を\(t\)に比例するようにフィットすれば\(D\)を得ることができる。\(N_{A}\)以外の定数も他の実験から決定することができるので、アインシュタインの関係式を使って、1モルあたりの原子数を数えることができる。