逆行列の問題で論理トレーニング

論理学の応用例として、逆行列に関連した証明問題を書き直しました。

ここで使う論理


モーダス・ポンネンス


\(P\)が真かつ\(P \Rightarrow Q\)が真ならば\(Q\)は真。

推移律


\[P_{i} \Rightarrow P_{i+1}~~(i=1,2,\ldots n)\]が全て真ならば\(P_{1} \Rightarrow P_{n}\)である。

ここで使う定理


ここで使う定理を列挙する。ここでは\(x,y,a,b\)は正方行列全体の集合の元とする。

  • \(xy = x+y\)ならば\(x-1,~~y-1\)の積は1

  • \(xy=1\)ならば\(x,~y\)は互いに逆行列

  • \(x,~y\)が互いに逆行列ならば\(xy=yx=1\)


次の記号を導入する。

  • \(P(x,y): xy = 1\)

  • \(Q(x,y): y = x^{-1}\)

  • \(R(x,y): xy = yx = 1\)

  • \(S(x,y): xy = x+y\)


上に列挙した定理を記号で書く。


    • \(\forall x,y;~S(x,y) \Rightarrow P(x-1,y-1)\)

    • \(\forall x,y;~P(x,y) \Rightarrow Q(x,y)\)

    • \(\forall x,y;~Q(x,y) \Rightarrow R(x,y)\)


    問題


    正方行列\(A,B\)が\(AB = A+B\)ならば\(BA = A+B\)である。このことを証明せよ。

    証明


    問題を記号を使って書けば
    \[\forall x,y;~S(x,y)\Rightarrow S(y,x)\]
    である。これの証明は、上の定理を認めれば、非常に素直に証明できる。まずある正方行列\(a,b\)が\(ab = a+b\)を満たすとする。このとき上の定理が成り立つから

    • \(S(a,b) \Rightarrow P(a-1, b-1)\)

    • \(P(a-1,b-1) \Rightarrow Q(a-1, b-1)\)

    • \(Q(a-1,b-1) \Rightarrow R(a-1, b-1)\)


    が成り立つので推移律から
    \[ S(a,b) \Rightarrow R(a-1, b-1)\]である。今\(S(a,b)\)が真と仮定したので、モーダス・ポンネンスから\(R(a-1, b-1)\)は真である。\(a,b\)は任意に選んだので
    \[\forall x,y;~~S(x,y) \Rightarrow R(a-1,b-1)\]
    が成り立つ。ここで
    \[R(a-1, b-1) \Leftrightarrow (b-1)(a-1) = 1 \Leftrightarrow S(b,a)\]
    を使うと
    \[\forall x,y;~S(x,y) \Rightarrow S(y,x)\]
    が証明される。

    \(\forall x,y;~P(x,y) \Rightarrow Q(x,y)\)の略証


    任意の正方行列\(a,b\)について\(P(a,b)\)とすると、\(\det [AB] = \det A \det B\)なので\(\det A \det B = 1\)。従って\(\det A \neq 0\)であるから行列\(A\)は正則である。正則行列逆行列を持つので、\(AB = 1\)の左から\(A^{-1}\)を掛けると\(B = A^{-1}\)であることが分かる。

  • ルンゲ-レンツベクトル

    クーロン力が粒子に働くとき、ルンゲ-レンツベクトルが保存することは、直接時間微分することで確認できます。この量はどこから出てくるのか調べてみました。

    説明無しに使う主な事柄



    • 作用Sとすると、座標\(q\)に共役な運動量は\(\frac{\partial S}{\partial q}\)

    • 循環変数\(q\)があるとき、共役な運動量を\(p\)とすると\(pq \subset S\)である。

    • エネルギーが保存するとき、作用は\(S = S_{0}(p,q) - Et\)の形をしている。

    • 作用は\(\frac{\partial S}{\partial t} + H(q,\partial S/\partial q) =0\)の解(ハミルトンヤコビ方程式)

    • 角運動量デカルト座標で\(\boldsymbol{L} = \boldsymbol{x} \times \boldsymbol{p}\)で定義する


    保存量の探索


    粒子にクーロン力の働く場合のラグランジアン
    \[ L = \frac{m}{2}\boldsymbol{v}^{2} - \frac{\alpha}{r}\]
    である。放物線座標系でハミルトニアンを書く。すると
    \[ H = H(\xi,\zeta, p_{\xi}, p_{\zeta},p_{\phi})\]
    になる。エネルギーは保存し、\(\phi\)は循環座標だから
    \[ S = p_{\phi}\phi + S_{0} - Et\]
    となる。運動量を作用の導関数で書きなおすと、ハミルトニアンは座標の関数として書くことができる。\(S_{0} = S_{\xi}(\xi)+S_{\zeta}{\zeta}\)となるように、方程式の解の形を仮定すると\(p_{i} = \frac{\partial S_{q}(q)}{\partial q}\)となり、ハミルトニアンは次のようになる。
    \[H = \frac{\bar{H}_{\xi}(\xi) + \bar{H}_{\zeta}(\zeta)}{m(\xi+\zeta)} \]
    エネルギーが保存するので、全体に\(m(\zeta+\xi)\)をかけると
    \[(\bar{H}_{\xi} - \bar{E}m\xi)+(\bar{H}_{\zeta} - Em\zeta) = H_{\xi} + H_{\zeta} = 0\]
    が成り立つので\(H_{q}\)もそれぞれ一定の値を取る。
    \[H_{\zeta} = - H_{\xi} = \mathrm{const.}\]
    \(\phi\)をz軸周りの角度に取ったとすると
    \[(\boldsymbol{A})_{z} = \frac{H_{\zeta}-H_{\xi}}{2} = \left(\boldsymbol{p}\times \boldsymbol{L} + \frac{\alpha}{r}\boldsymbol{r}\right)_{z}\]
    になる。他の座標周りについても同様のことが言えるので、ベクトル\(\boldsymbol{A}\)は保存する。このベクトルはルンゲ-レンツベクトルと呼ばれている。

    計算問題


    ラグランジアンの計算


    円筒座標と放物線座標を
    \[
    \begin{align*}
    x &= \rho \cos \phi,~~y = \rho \sin \phi\\
    r &= \sqrt{\rho^{2}+z^{2}} = \frac{1}{2}\left(\xi + \zeta\right),
    ~~z = \frac{1}{2}\left(\xi - \zeta\right),~~\rho =\sqrt{\xi\zeta}\\
    \xi &=r + z,~~\zeta = r - z\\
    \end{align*}
    \]
    で定義する。ラグランジアンはそれぞれ
    \[
    \begin{align*}
    L &= \frac{1}{2m}\left(\dot{\rho}^{2} + \rho^{2}\dot{\phi}^{2} + \dot{z}^{2}\right) - U\\
    &= \frac{m}{8}(\xi + \zeta)\left(\frac{\dot{\xi}^{2}}{\xi} + \frac{\dot{\zeta}^{2}}{\zeta}\right)+\frac{m}{2}\xi\zeta\dot{\phi}^{2} - U
    \end{align*}
    \]
    になることを示せ。

    ハミルトニアンの計算


    \(\partial L/\partial \dot{q}\)で運動量を求め、\(H = T + U\)から求めたハミルトニアンがそれぞれ次のようになることを示せ。
    \[
    \begin{align*}
    H &= \frac{1}{2m}\left(p_{\rho}^{2}+p_{z}^{2}+\frac{p_{\phi}^{2}}{m\rho^{2}}\right) + U\\
    &= \frac{2}{m}\frac{\xi p_{\xi}^{2}+\zeta p_{\zeta}^{2}}{\xi+\zeta} + \frac{p_{\phi}^{2}}{2m\xi\zeta} + U
    \end{align*}
    \]

    変数分離


    \(U = \alpha/r\)としたとき、変数分離できて、エネルギー\(E\),ルンゲ-レンツベクトル\(A_{z}\)はそれぞれ次のように書けることを示せ。
    \[
    \begin{align*}
    E &= \frac{1}{2m}\left(p_{\rho}^{2}+p_{z}^{2}+\frac{p_{\phi}^{2}}{m\rho^{2}}\right) + \frac{\alpha}{r}\\
    (A)_{z} &= (\zeta p_{\xi}^{2}-\zeta p_{\zeta}^{2}) + z(mE) + \frac{p_{\phi}^{2}z}{2\rho^{2}}\\
    &= \left[p_{\rho}(z p_{\rho} - \rho p_{z}) + \frac{p_{\phi}^{2}}{\rho^{2}}z\right]+\frac{m\alpha z}{r}~~(1)
    \end{align*}
    \]
    \(E\)の右辺を\(A_{z}\)の右辺の一段目に代入して、
    \[
    \begin{align*}
    p_{\zeta} &= \frac{\partial S}{\partial \zeta} = \frac{\partial \rho}{\partial \zeta}p_{\rho} + \frac{\partial z}{\partial \zeta}p_{z}\\
    &= \frac{1}{2}\left(\frac{\xi p_{\rho}}{\rho} - p_{z}\right)\\
    p_{\xi} &= \frac{\partial S}{\partial \xi} = \frac{\partial \rho}{\partial \xi}p_{\rho} + \frac{\partial z}{\partial \xi}p_{z}\\
    &= \frac{1}{2}\left(\frac{\zeta p_{\rho}}{\rho} + p_{z}\right)
    \end{align*}
    \]
    を使う。

    ルンゲ-レンツベクトル


    ルンゲ-レンツベクトル\(\boldsymbol{A}\)のz成分をデカルト座標から円柱座標に変換し、(1)に一致すること、また定義式を直接時間微分すると0になることを確かめよ。

    対称性


    この保存量をネーターチャージとして定義することはできるか。

    フェルマーの原理

    この文章では、波のある点の運動について運動方程式を立て、最小作用の原理からフェルマーの原理を導きます。このときの一般化運動量とエネルギーは、ちょうど質量0の粒子の場合に一致しています。最後にフェルマーの原理から光の直進性と屈折の法則を導きます。運動方程式を立てる準備として、群速度について説明することから始めます。

    群速度


    分散関係\(\omega(k)\)を持った2つの波の重ね合わせを考える。
    \[f(y,t) = C\{\cos(k_{0}y - \omega(k_{0}) t) - \cos(ky-\omega(k) t)\}\]
    ここで\(k = k^{\prime} + \Delta k,~~k_{0} = k^{\prime} - \Delta k\)とすると、三角関数の合成公式を使うと
    \[f(y,t) =\left[2C\sin(\Delta k y - \Delta \omega t)\right]\sin(k^{\prime}y - \omega(k^{\prime})t)\]
    と書ける。ただし\(\omega(k) = \omega(k^{\prime}) + \Delta \omega,~~\omega(k_{0}) = \omega(k^{\prime}) - \Delta \omega(k)\)である。
    特に\(\Delta \omega << \omega(k^{\prime})\)になるとき、\([\ldots ]\)の部分は大きさ\(0\)から\(2C\)までゆるやかに時間変化する振幅で、角振動数\(\omega(k^{\prime})\)で振動していて、うなりを起こしている。

    このとき、波の振幅の変動部分は\(\frac{\Delta \omega}{\Delta k}\)の速さで移動する。平均値の定理を使えば、
    \[ \frac{\Delta \omega}{\Delta k} = \frac{\omega - \omega_{0}}{k-k_{0}} = \frac{d\omega(\bar{k})}{dk}~~(k_{0} \le \bar{k} \le k)\]
    になる。今\(k_{0}\)と\(k\)が近い場合を考えているのだから、\(\bar{k}\simeq k^{\prime}\)になる。このような、比較的波長の近い波が重ね合わさったときに、その波全体としての移動速度は\(\frac{d\omega}{dk}\)で特徴付けることができて、これを群速度と呼ぶ。

    運動方程式


    波の式は
    \[ f(y,t) = A(y,t)\sin [\phi(y,t)]\]
    と書ける。位相の部分の全微分
    \[ d\phi(y,t) = \frac{\partial \phi}{\partial y}dy + \frac{\partial \phi}{\partial t}dt\]
    だが、平面波の場合と比較すれば
    \[ k = \frac{\partial \phi}{\partial x},~~\omega = -\frac{\partial \phi}{\partial t}\]
    になる。今、波のある点の時刻tの波数とその位置をそれぞれ\(p(t),x(t)\)としよう。この時、この点は群速度の速さで伝わっていく。上の式を使えば、波数の時間微分は上の式から得られるので、今考えた点の運動方程式
    \[ \dot{p} = -\frac{\partial \omega}{\partial x},~~\dot{x} = \frac{\partial \omega}{\partial p}\]
    となる。これは、\(\omega\)をハミルトニアンとした場合のハミルトンの運動方程式になっている。

    フェルマーの原理


    最小作用の原理から、フェルマーの原理を導く。フェルマーの原理が成り立つのは、\(\omega\)が時間に依らず一定の値を取るときに対応する。このようなとき、運動の始点と終点を固定して終点の時刻を変化させてみると、作用の変分は
    \[ \delta S = -\omega \delta t\]
    となる。作用は\(S = \int \boldsymbol{p}\cdot d\boldsymbol{x} - \int H dt\)だが、今\(H = \omega\)だから作用の変分は
    \[ \delta S = \delta (\int \boldsymbol{p}\cdot d\boldsymbol{x}) - \omega \delta t\]
    従って実際に起こる運動は次のようになる。
    \[ S_{0} = \int \boldsymbol{p} \cdot d\boldsymbol{x},~~\delta S_{0} = 0\]
    これが、フェルマーの原理になっていることは、\(d\phi\)を\(\omega\)が一定として積分した値がちょうど作用に一致していることから分かる。

    フェルマーの原理の応用


    真空中の光の運動


    真空中では、波数ベクトルは、その単位ベクトルを\(\boldsymbol{n}\)とすると\(\boldsymbol{p} = \frac{\omega}{c}\boldsymbol{n}\)である。\(\boldsymbol{n}\cdot d\boldsymbol{x} = dl\)とすると\(\int dl\)が最小になるように光は伝わっていく。2点の最短経路は直線だから、光は直進する。

    光の屈折


    媒質1,2での光の速度を\(v_{1},v_{2}\)とする。始点から境界面への経路を\(p_{1}\)、境界面から終点までの経路を\(p_{2}\)とすると
    \[S_{0} = \int_{\boldsymbol{x} \in p_{1}} \frac{\omega}{v_{1}}\boldsymbol{n}\cdot d\boldsymbol{x}
    +\int_{\boldsymbol{x} \in p_{2}} \frac{\omega}{v_{2}}\boldsymbol{n}\cdot d\boldsymbol{x}
    \]
    を最小にする経路をとる。一番最初に考えたように、光の速度が同じ区間では光は直進するので、始点、境界面、終点を\((x_{i},y_{i}),(x_{0},0),(x_{f},y_{f})\)とすると
    \[S_{0} = \omega\left(\frac{\sqrt{(x_{0}-x_{i})^{2}+y_{i}^{2}}}{v_{1}}+\frac{\sqrt{(x_{f}-x_{0})^{2}+y_{f}^{2}}}{v_{2}}\right)
    \]
    で、これが最小になる\(x_{0}\)が実際に実現される運動になる。
    \[
    \begin{align*}
    \frac{dS_{0}}{dx_{0}} &= \omega\left(\frac{\sin \theta_{1}}{v_{1}} - \frac{\sin \theta_{2}}{v_{2}}\right) = 0\\
    \sin \theta_{1} &= \frac{x_{0} - x_{i}}{\sqrt{(x_{0}-x_{i})^{2}+y_{i}^{2}}}\\
    \sin \theta_{2} &= \frac{x_{f} - x_{0}}{\sqrt{(x_{f}-x_{0})^{2}+y_{f}^{2}}}
    \end{align*}
    \]
    これは屈折の法則、あるいはスネルの法則と呼ばれている。

    光の粒子説と屈折

    光を粒子だと思って屈折が説明できたとしても、屈折する粒子と反射する粒子の比は力学の中からは出てきそうもありません。そういった意味で現実を説明する理論としては終わってますが、遊ぶことはできます。

    この文章の目標


    歴史的には、フーコーの実験により粒子説は否定されたと説明されることがある。特殊相対性理論を知っている現代人の視点としては、光を非相対論的粒子(必然的に質量を持つ)と仮定して妥当な結論に至らないのはほとんど当たり前だが、相対論的に扱った場合、どうなるかは考えてみないと分からない。この文章では、光を質量0粒子だと仮定して、フーコーの実験結果を説明することに挑戦してみた。

    問題


    空気中の光は水面に入射すると屈折する。このことを光を質量0の粒子と仮定して説明を試みる。簡単のために、二つの半空間1,2があり、互いに1つの平面で接合しており、光は半空間1から2へ入射したとして説明する。
    座標は、空間の均質な方向をx軸、それに垂直で1から2への方向をy軸にとる。入射角度とy軸となす角と屈折した角度と-y軸のなす角をそれぞれ\(\theta_{1},\theta_{2}\)とし、半空間iでの光の速度を\(\boldsymbol{v}_{i}\)とする。

    使える性質


    以下の説明で断りなく使っている性質の一覧。

    • 半空間のそれぞれの速度の上限を\(c_{i}~~(i=1,2)\)とする(仮設)

    • エネルギーは屈折の前後で保存する(仮設)

    • 粒子ならば、ハミルトニアン\(H = c\sqrt{p^{2}+(mc)^{2}}\)に従って運動する。\(c\)は速度の上限。(理論)

    • 運動はハミルトンの運動方程式に従う(理論)

    • 粒子の質量が0ならば、粒子の速度は速度の上限に等しい(導)

    • x方向の運動量は保存される(導)


    (仮設)は、説明のために無理矢理ここででっちあげた仮説、(理論)は一般的な力学の理論、(導)は仮設と理論から導かれる性質を意味する。(導)については、最後に説明する。

    解答


    エネルギーは屈折する前後で変化しないので、半空間における運動量をそれぞれ\(p_{1},~~p_{2}\)とすると
    \[ E = c_{1} p_{1} = c_{2} p_{2}\]
    x軸方向の運動量は保存するので
    \[ p_{1}\sin \theta_{1} = p_{2} \sin \theta_{2}\]
    である。従って\(\theta_{1},~~\theta_{2}\)の関係は
    \[ \frac{\sin \theta_{1}}{\sin \theta_{2}} = \frac{p_{2}}{p_{1}} = \frac{c_{1}}{c_{2}}\]
    になる。質量0の粒子の速度は、速度の上限に等しくなるのだから
    \[\frac{\sin \theta_{1}}{\sin \theta_{2}} = \frac{v_{1}}{v_{2}}\]
    になる。

    考察


    光を非相対論的な粒子と考えて屈折を説明しようとした場合、半空間iにはそれぞれ一様なポテンシャルを持って、屈折をする瞬間に力がy軸方向に力が働くとして説明する。x方向の運動量保存則から
    \[\frac{\sin \theta_{1}}{\sin \theta_{2}} = \frac{v_{2}}{v_{1}}\]
    になり、相対論的な場合とほぼ同じだが、運動量の形が違うので、全く逆の傾向があらわれる。半空間1が空気、半空間2が水だとすると\(\theta_{1} > \theta_{2}\)なので、相対論的な場合は\(v_{1} > v_{2}\)、非相対論的な場合は\(v_{1} < v_{2}\)になる必要がある。フーコーの実験では\(v_{1} > v_{2}\)になることが確認されている。

    粒子説の弱点


    今回は屈折のみに集中して考えたが、光は同時に反射もする。粒子で考えた場合、やはり適当な仮説を設ければ反射角も説明できる。しかし上にも書いたように、屈折する粒子と反射する粒子の比率を力学の中で説明することは不可能に思える。

    粒子の質量が0ならば、粒子の速度は速度の上限に等しい


    質量0粒子のハミルトニアン
    \[ H = c\sqrt{p^{2} + (mc)^{2}} = cp\]
    である。ハミルトンの運動方程式より
    \[v_{i} = \dot{x_{i}} = \frac{\partial H}{\partial p_{i}} = c\frac{p_{i}}{p}\]
    である。従って\[v = c\]が得られる。

    x方向の運動量は保存される


    半空間iでのはミルトニアンは\( H_{i} = c_{i}p\)だから、空間iで\(c_{i}\)の値を取る関数\(c(y)\)を使って全空間でのハミルトニアン
    \[ H = c(y)p\]
    と書くことができる。ハミルトンの運動方程式より\(\dot{p}_{x}\)は
    \[\dot{p}_{x} = -\frac{\partial H}{\partial x} = 0\]
    だから、運動量のx方向は保存する。半空間1から2へ移動する前後で\(c\)が変化するので、そのときに何らかの力が働く。

    ユーリの使った背理法のロジック

    数学ガール/フェルマーの最終定理の10.3.2「風景から問題を見出す」(p299)でユーリが問題10-1を解いてみせています。そのとき使ったロジックについて考えてみました。

    定理


    命題\(P, Q, R\)に対して\((\lnot P \land Q) \Rightarrow R\)と\((\lnot P \land Q) \Rightarrow \lnot R\)がどちらも真ならば、\(Q \Rightarrow P\)は真である。

    証明


    命題\(A,B,C\)に対して
    \[(A\Rightarrow B) \land (A \Rightarrow C) \equiv A \Rightarrow (B \land C)\]
    だから
    \[ ((\lnot P \land Q) \Rightarrow R) \land (\lnot P \land Q) \Rightarrow \lnot Q) \equiv
    (\lnot P \land Q) \Rightarrow (R \land \lnot R)
    \]
    である。また、命題と対偶命題も論理的同値、つまり論理式で書けば
    \[ A \Rightarrow B \equiv \lnot B \Rightarrow \lnot A\]
    なので
    \[
    \begin{align*}
    (\lnot P \land Q) \Rightarrow (R \land \lnot R)
    &\equiv \lnot (R \land \lnot R) \Rightarrow \lnot (\lnot P \land Q)\\
    &\equiv (\lnot R \lor R) \Rightarrow (P \lor \lnot Q)
    \end{align*}
    \]
    である。最後の変形にはド・モルガンの法則を使った。\(\lnot R \lor R\)は常に真であることと、
    \(\lnot Q \lor P \equiv Q \Rightarrow P\)を使うと
    \[
    (\lnot R \lor R) \Rightarrow (P \lor \lnot Q)\equiv Q \Rightarrow P
    \]
    である。従って
    \[
    ((\lnot P \land Q) \Rightarrow R) \land (\lnot P \land Q) \Rightarrow \lnot Q)
    \equiv Q \Rightarrow P
    \]
    が成り立つ。これが示したいことだった。

    応用



    1. FLT(4)が成り立つ

    2. フェルマーの最終定理が成り立たず、FLT(4)が成り立つならば、ある3以上の素数pに対してFLT(p)が成り立たない

    3. すべての楕円曲線は、モジュラーである

    4. ある3以上の素数pに対してFLT(p)が成り立たないとすれば、フライ曲線は存在する

    5. フライ曲線は、楕円曲線である

    6. フライ曲線は、モジュラーではない


    以上のことが成り立つとすると、フェルマーの最終定理は成り立つ。このことを証明しなさい。

    命題の翻訳


    まず列挙された定理を論理記号に翻訳する。

    • F:フェルマーの最終定理が成り立つ

    • Ln:FLT(n)が成り立つ

    • T:ある3以上の素数pに対してFLT(p)が成り立たない

    • Px:xは楕円曲線である

    • Qx:xはモジュラーである

    • Rx:xはフライ曲線である


    という記号を使うと、上の定理は次のように書ける。

    1. \(A_{1} = L4\)

    2. \(A_{2} = \lnot F \land L4 \Rightarrow T\)

    3. \(A_{3} = \forall x(Px \Rightarrow Qx)\)

    4. \(A_{4} = T \Rightarrow \exists x Rx\)

    5. \(A_{5} = \forall x(Rx \Rightarrow Px)\)

    6. \(A_{6} = \forall x(Rx \Rightarrow \lnot Qx)\)


    証明


    \(A = A_{1} \land A_{2} \land A_{3} \land A_{4} \land A_{5} \land A_{6}\)とし、\(B\)をある命題とする。上の背理法を使えば\(\lnot F \land A \Rightarrow B\)かつ\(\lnot F \land \Rightarrow \lnot B\)を導けば、\(A \Rightarrow F\)が成り立つ。

    i)\(\lnot F \land A \Rightarrow B\)


    \(\lnot F\)とすると、\(\lnot F \land L4\)が成り立つので、これと\(\lnot F \land L4 \Rightarrow T\)から\(T\)は真になる。\(T\)と\(T \Rightarrow \exists x Rx\)から、\(Rx\)を真にする\(x\)がある。これを\(\alpha\)と呼ぶことにする。\(R\alpha\)と\(\forall x(Rx \Rightarrow Px)\)から\(P\alpha\)は真である。\(P\alpha , \forall x(Px \Rightarrow Qx)\)から\(Q\alpha\)。従って
    \[\lnot F \land A \Rightarrow Q\alpha \]
    が成り立つ。

    ii)\(\lnot F \land A \Rightarrow \lnot B\)


    また、\(R_{\alpha},~~\forall x(Rx \Rightarrow \lnot Qx)\)から\(\lnot Q\alpha\)。従って
    \[\lnot F \land A \Rightarrow \lnot Q\alpha\]
    である。



    (i),(ii)より、\(A \Rightarrow F\)が真になることが証明された。

    参考図書


    数学: 物理を学び楽しむために


    2章に集合と論理について扱っています。物理学を専攻にする人には、一番薦めやすいです。もちろん、他の人にもオススメです。

    だれでも証明が書ける


    数学の証明に使う論理や、証明の書き方について書かれています。

    論理学をつくる


    タイトルの通り論理学をつくっていきますが、論理学の標準的な教科書でもあると思います。練習問題には映画ネタが多くて面白いかもしれません。ただし、数学で使うような論理学を軽く超えていきます。

    放浪問題の別解

    数学ガール/乱択アルゴリズム』の問8-2 放浪問題は、確率過程の一種、離散マルコフ連鎖の簡単な例のようです。また、線形代数に関する知識をもう少し使うと、次のようにも解くことができます(定理になるような部分は赤字で強調しました)。勉強のモチベーションに繋がれば、幸いです。

    解答

    \((a_{n+1}, b_{n+1})\)と\((a_{n}, b_{n})\)との間を結ぶ行列を\(T\)と書く。この行列の1行2列成分の意味を時刻n+1の立場から考えると、「今A国にいて、B国から来た」だ。他も同様の解釈ができて、i行j列成分の意味は、「今C[i]国にいて、C[j]国から来た」(C=["A", "B"]とする)と解釈できる。この解釈から、C[i]国に来る方法が、A国からかB国からの必ずどちらかなので、\(\sum_{i=1}^{2}T_{i,j} = 1\)になることが分かる。

    固有値

    これを使うと\(\boldsymbol{v}^{(0)} = (1, 1)^{t}\)は転置行列\(T^{t}\)の固有ベクトルになっていることが確かめられる。計算すると\(T^{t}\boldsymbol{v}^{(0)} = \boldsymbol{v}^{(0)}\)が成り立ち、固有値は1になる。また、行列式固有値の積で書けるので、残りの固有値は\(\det(T^{t}) =1-p-q\)だ。転置行列ともとの行列の固有値は全て等しいので\(T\)の固有値は\(1, 1 - p - q\)になる。全て異なる固有値を持つ行列の固有ベクトルは線形独立で、一般に次元dのとき、任意のd次元ベクトルは線形独立なd個のベクトルで展開できるので、任意のベクトルは固有ベクトルで展開できる。

    固有ベクトル

    固有方程式にそれぞれの固有値を代入して、それに対応する固有ベクトルを計算する。結果は
    \[
    \left(\boldsymbol{v}^{(1)}\right)^{t} = (q, p),~~
    \left(\boldsymbol{v}^{(2)}\right)^{t} = (1, -1)
    \]
    になる。

    n年目C[i]国にいる確率

    \(\boldsymbol{p}_{n} = (a_{n},b_{n})^{t}\)と書くことにすると\(\boldsymbol{p}_{n} = T^{n}\boldsymbol{p}_{0}\)である。\(\boldsymbol{p}_{0}\)を固有ベクトルで展開すれば、\(T^{n}\boldsymbol{v}^{(i)} = \lambda_{i}^{n}\boldsymbol{v}^{(i)}\)になるので、すぐさま\(\boldsymbol{p}_{n}\)を求めることができるので、さいごに展開係数を求める。\(\boldsymbol{p}_{0} = c_{1}\boldsymbol{v}^{(1)} + c_{2}\boldsymbol{v}^{(2)}\)とすると、規格化条件から\(c_{1}=1/(p+q)\)に決まり、\((\boldsymbol{p}_{0})_{1} = r\)とすると\(c_{2} = r-q/(p+q)\)に決まる。\(r=1/2\)にすると本の結果に一致する。

    宣伝

    最後まで読んでくださりありがとうございます。数学ガール/乱択アルゴリズムに登場する擬似コードの実行環境『Hello Algorithm』を開発しています。よろしくお願いします。

    より自明な場合から考える。逆から考える。


    これだとさすがに方針が立たないから、AB=A+Bならば[A,B]=0を示せという問題ということにします。

    設定より厳しい条件にして、逆から考えています。行列式は行列の固有値の積なのでdet(A-1)とdet(B-1)は逆数になります。

    エルミート行列で[A,B]=0ならばdet( (A-1)(B-1) )=1を得たのを反省してみて、別にエルミート行列でなくてもAB=A+Bならば(A-1)(B-1)=1だからdet( (A-1)(B-1) )=1なんだと気付きます。またdet(A-1)det(B-1)=1からA-1は正則で、B-1はA-1の逆行列だということも分かります。

    うん。あまり計算をしないぼくは(A-1)(B-1)=1なんて関係をいきなり見抜けないからこんな感じで考えていけば、答えに辿り着けるかもしれない。うんうん。